柳沢友也 x 柿澤剛之 特別対談:「柳沢さん、ワールドマスターどうでした!?」WORLD MASTER 2024

IBJJF主催「ワールドマスター2024」のマスター2黒帯フェザー 準々決勝で元UFC王者 デメトリアス・ジョンソン選手に見事な一本勝ちをした柳沢 友也さんと、その元同門の柿澤 剛之さんにお声がけして、対談形式で今回のワールドマスターで感じたことや裏側でのエピソードなどをお聞きしました。
柳沢さんと柿澤さんの関係性だからこそ語られたエピソードの数々は必見です!
プロフィール

柳沢友也 IBJJF WORLD MASTER 2024 黒帯フェザー級3位
1984年生まれ。柔術黒帯。柳澤柔術 代表。14才から名門PURBRED大宮で柔術を習い22才で黒帯になる。柔術歴20年以上。国際大会を中心に入賞を重ね本場ブラジルで修行し更に技術を高める。師匠は故・吉岡大。

柿澤剛之 難攻不落のダイヤモンドガード
1977年生まれ。柔術黒帯。Relaxin'BJJ代表。大学生の頃から名門PURBRED大宮で柔術の練習を開始。世界トップ選手からもパスを許さない鉄壁のガードワークで「難攻不落のダイヤモンドガード」の異名を持つ。

TUNETOMO 司会・進行
柔術イラストレーションを運営。柔術紫帯。2020年の春から開始したインタビュー企画「ピュアブレッドの系譜」シリーズで柳沢さん・柿澤さんを取材。
ワールドマスターを振り返ってみて


ワールドマスターの試合が終わって半月ほど経ちましたが、現在どんな心境ですか?

そうですね。普段は自分で自分を褒めることはあまりないんですけど、「ほんと、よくやったな」って思ってます。
よく、あの強豪ぞろいの面子の中に飛び込んだなって。


出場することを決めてからの期間は長かったんですけど、終わってみれば本当にあっという間でした。試合もあっという間で。
それから、自分は1日に6試合もしたことないんですよ。それが5試合もできたんで。

なんと!柳沢さんほどのキャリアがある方でも、6試合は初だったんですね。
あと、ワールドマスターへの参戦も初でしたが、なにか大変だったことはありましたか?

やっぱり、超円安で物価が高かったことですかね。たとえば、自動販売機で水を買うと900円くらいしちゃうんですよ。

時差が16時間あったと思うんですけど、コンディションはどうでした?

時差ボケは覚悟してました。「実力の7割出ればいいかな」と。
それで、やっぱり試合は時差ボケの状態でいつもの7割くらいのコンディションでした。
あと気温が46度あるんですよ。しかもラスベガスは砂漠地帯で、カラッカラに乾燥した気候なので汗がでない。
だから、いつ脱水症状になったか分からなくて、気がついたら足が攣っていたりしました。

昔はライトフェザーでしたけど、体重はどうでしたか?

3kgくらいアンダーでした。ちょっと体重は足らなくても、コンディションを最優先しようという判断で。

試合直後のインタビューで「ケイシーニョ(優勝)の身体の強さが別次元だった」とおっしゃってましたが、普段よく一緒に練習されている階級上のMMA選手よりも強かったんですか??

組み力がぜんぜん違いますね。
上からの圧力には慣れているんですが、下からの引きつけでプレッシャーのない状態から、急に出力が「グンッ!」と上がってくる感じは普段の練習ではあまり経験できない感覚で驚きました。

久しぶりの国際試合だったことは関係ありますか??

あまり経験したことのない圧力だったので、ブランクではなく階級を上げたことによる違いだと思います。
デメトリアス・ジョンソン選手との試合

準々決勝で戦ったデメトリアス・ジョンソン選手の実力ってどんな感じでした ??

DJ(デメトリアス・ジョンソン)は機動力がすごくて、動きが速いんですよ。
だから対戦相手がみんな「防がなきゃいけない!」という心理になって、ぜんぶ後手になってましたね。
自分はうまく引き込めたのですが。

それから、道着の使い方に関しては、まだそこまで「巧い!」という感じではなかったです。意外といいところを持たせてくれたりして。
それからパスガードの勢いがすごくて、バランスが良いです。

自分は加古さんとの試合も見てたんですけど、「全然ひっくり返らないんだな」って思いました。

加古さんがスイープを仕掛けても、ギリギリのところで凌ぎまくってましたよね。

ああいうタイプって、フックスイープとか耐えられちゃうんですよ。猿田さんみたいな感じで。

「飛んでも、着地されちゃう」みたいな感じですかね。

確かに。猿田さんと石黒翔也選手の試合みたいでしたね。

ああいうバランスの良い相手は、2点持ちみたいなスイープじゃないと返らないんですよ。ホレッタみたいな。

なるほど。分かります。分かります。

だから、この試合は「ホレッタでスイープする」という作戦でしたが、うまくハマりました。

ホレッタといえば、同門の時任さんの得意技ですよね。

時任さんの超得意技です!

そう。時任さんにはお礼を言わなきゃですね。

僕も時任さんにはホレッタ勉強させてもらいましたからね。
「いいな!これ!!」って(笑)
僕らみんな、ホレッタに関しては時任さんの影響ありますよね!

時任さんほどの技の精度はないですけど・・・(笑)
ベーシックなやつならいけるかなって感じです。

そのホレッタで返したのがアドバンになり、その後はシッティングガードからの展開になりましたよね。

そうです。それでDJが突っ込んできたところに「キュッ!」とループチョークをあわせて。

普段からよく使ってる技なんですか?

使ってますね。

自分も何度やられたか分からないレベルであの技を食らってます。もう、10回やそこらじゃないです・・・!!
ずっと、真似できないんだよなー・・・と思ってた技です(笑)

パトスタジオ 西林さんが現地で撮影してSNSにアップした動画の再生数が22万回を超えてましたよね。注目度がすごかったです。

まだ早朝でしたが、思わず大声で「うおおーーー!!」って叫んじゃいました(笑)
あと試合が終わって拳を振り上げたのが、めちゃくちゃカッコよかったです!もう、魂が震えるくらい感動しました。

感情がたかぶって・・・(笑)

顔の表情がちょっとキマっちゃってる感じで、「昔の顔に戻った!」って感じがしました(笑)

集中して「絶対やってやる!」っていう気持ちでした。

それで嬉しかったのが、翌日アドリアーノ・モラレスが自分を見つけて話しかけてきてくれたんですよ。
「あの技、どうやってやったんだ?」って。

ONEチャンピオンシップでランキング1位の選手ですよね。


そうそう。それで、自分の拙い英語でループチョークを教えたんですよ(笑)

トップ選手なのに「学びたい」という気持ちが好感が持てますね!

アドリアーノ・モラレスってDJと仲が良いから、試合見てたんでしょうね!
オズワルド・ケイシーニョ選手との試合

柿澤さんはケイシーニョをご存知でしたか?

もちろん知ってますよ!すごく強い選手です。
フェザー級でムンジアル3位が最高位の選手だけど、当時の同じ階級にはメンデス、コブリンヤ、マリオ・ヘイスがいましたから、その時代に3位に食い込むのは相当すごいですよ。

自分は、パウロ・ミヤオ君の足を壊したのが印象に残ってます。

エスティマロックですよね。

あの、狂った試合として語り草になってる、足が折れてもタップせずに、そのまま3試合してミヤオが優勝・・・という伝説の試合で、ミヤオの足を折った張本人ですよね。

そうです。そうです。

極め技という観点から戦績を調べてみたんですけど、ケイシーニョって「バックチョーク」「オモプラータ」「アームバー」で勝ってることが多いですね。


ケイシーニョは極め全般が強いんですよ。
瞬発力があって、戦略として積極的に極めを狙ってくるタイプの選手です。

いま思い出したんですけど、この試合は開始早々お互いに引き込むんですけど、自分の顎に相手の頭が「ゴンッ!!」ってバッティングしっちゃったんですよ。
それで一瞬、意識が飛んだんですよ。
そこでちょっとコンマ1くらい、心の隙間ができてました。

バッティング食らうと意識が飛びますよね。

それですぐに試合再開して、お互い引き込んだ状態から片襟片袖で「グンッ!!」と引っ張られて、そのままオモプラータに入っちゃった感じです。


自分としては甘さが出たというか、DJに勝って若干緩んでしまったのもあるかもしれないですね。

そうですね。「成し遂げてしまった感」があったのかもですね。

高本さん(高本道場)からも「ここで終わらしてはいけない。最後まで気を抜いたらダメだ!」って言われてたんですけどね。

5試合目だったので、気持ちのスタミナも落ちてたかな。。。

やっぱりバッティングで効いちゃうとダメですよね。脳が揺れちゃうと、しばらくボーとしちゃうというか、動きも落ちますしね。

それで今後は、脳が揺れても対応できるような練習をしようと思ってます。

ええっ!? (笑)

(驚きの練習方法を聞いて)
創意工夫がすごい・・・

あっ、そうだ。これは聞いておきたかったんですけど、ケイシーニョって他の選手とは、ぜんぜん段違いで強かったんですか?


はい。段違いです。

だと思います。

あと、高本さんで思い出したんですけど、高本さんは昨年ワールドマスターで優勝してるのに、今年は1回戦で負けたじゃないですか。
それって、やっぱり初戦の相手が強かったからなんですか?

「対戦相手に、ものすごく研究されてた」って言ってましたよ。

自分とDJの試合も、ケイシーニョは見て研究してたでしょうね。

海外の選手って、日本の選手よりも対戦相手の試合を見てきますよね。どういう選手か、少しでも情報を得ようとしてきます。

ケイシーニョも待機所でスマホいじりながら、体育座りしてずっと試合を見てました(笑)
柿澤さんが試合前に予想していたこと

試合前の予想では、周囲は「加古さんも柳沢さんも、勝つのは無理っしょ・・・」っていうムードだったんですよ。

柿澤さんの周囲では、それほどDJの評価が高かったんですね・・・(驚)

・・・でも、DJが有利かもしれないけれど、柳沢さんは必ず山場の試合にピークをもってくる選手なので、自分は「柳沢さんとDJは競るだろう」と予想してました。

馬場さん(昨年のワールドマスターでDJと対戦)が、「友也はめちゃくちゃ強い」「友也は簡単に負けない」と柿澤さんがおっしゃってた・・・とSNSに投稿されてたのを拝見しましたよ。

そうそう。馬場さん、たまにリラクシンに来てくれるんですよ。
それで「俺が倒すまで、DJは日本人に負けて欲しくない」って言ってました・・・(笑)

「DJは加古さんや柳沢さんと当たる前に負けて欲しい」とSNSでおっしゃってましたが、そんな思いが裏側にあったんですね。


(笑)

ところで、加古さんとDJの予想って、どうだったんですか?

僕は「加古さんは、DJの速さや瞬発力についていけないんじゃないか?」って予想してました。
実力に「差がある」とかではなく、相性的にDJに引っ掻き回されてたくさんポイントを取られるんじゃないかなって。

実際は、加古さんの仕掛けに対してDJが守りにいった試合になりましたね。

そう。試合かなり競ったじゃないですか。だから、加古さんすごいなって思いました。

自分とDJとは相性が良かったんですかね?

結果を見る限り、相性は少なくとも悪くなかったですよね。

柳沢さんも、スピードでは負けないですもんね。

そうですね。柳沢さんはカウンターで相手を動かすのも巧いんですけど、瞬発力があって自分が動くことも巧いので、フィジカル負けしていても戦えるんですよ。

動ける選手なんですけど、そこに巧さが加わってくるので余分には動かない。
それがやり辛いというか、1番ヤバいところなんです。

なるほど。余分には動かない(笑)
加古選手について


お二人は長く柔術をされてますが、加古選手と面識があったりするんですか?

自分はないですね。

僕も、ほぼほぼないです。柔術新聞主催の練習会で1回スパーしたことがあるくらいですかね。

ほほう。

自分は、加古さんが試合が終わった後に会いに来てくれて、ちょっと話をしたのが初対面です。

なんと。そこで交流があったんですね。

そうなんです。DJとの試合前に「固めたら勝てますよ」ってアドバイスをいただいて。でも「実際に組んでみないと分からない」と思って試合に臨みました。

加古さん的には、「固めていけば勝てる」という印象だったんでしょうね。動きまわってくるDJを止めて、どこかでスイープするようなイメージですかね。
試合後の反響


試合後の反響って、すごかったでしょう?

道場の人とか、セミナーに来てくれた人とか、昔の練習仲間が試合を見てくれていて、みんな「絶叫した!」「感動した」って言ってくれました。後輩もすごく喜んでくれましたよ。
それから、昔の友達から連絡があったのには驚きました・・・(笑)

柳澤柔術の入会も急増したんじゃないですか?

問い合わせは増えましたね。


OOTA DOJOのメンバーも、盛り上がったでしょう?

みんな「感動しました!」って言ってくれて、試合に触発されて「自分も試合に出てみます。もうエントリーしちゃいました!」って人もいたりして(笑)
内側に向かって、すごい刺激になりました。俺もやってみようかな!って感じで。

自分も久しぶりに試合したくなりましたよ。柿澤さんは、もう試合しないんですか?

僕はもういいです(笑)この筋肉は、練習用です!

今後のこと


今後の予定について教えてもらってもいいですか。

全国各地でセミナーをやりたいと思ってます。ご連絡をいただければ、10人以上の参加者がいるなら全国どこでも行きます!
欲を言えば、海外でもセミナーをしてみたいなと思ってます。

今ならワールドマスター入賞記念で、講師の交通費が全国どこでも無料だったり、代表者1名はセミナー費用が無料になるんですよね。
うちの地元にも来ていただくかを検討中です(本気)

柿澤さんは、なにか告知ありますか??

リラクシンでは小学生クラスを始めました。キッズ会員募集中です!
あと、プライベートレッスンも大歓迎です!!


柿澤さんは、ガードリテンションのスペシャリストなので、オープンガードの悩みごとをプライベートレッスンで相談するのがオススメですよね。

そうです。「こんなことで困ってます」みたいな質問形式が得意です!!
まとめ
柳沢さんのことは2020年の春から取材しているのですが、今回の試合でようやく実力の片鱗を世の中に知ってもらえた気がしていて、とても嬉しいです。
あと、今回の対談を聞いていて、ケイシーニョのオモプラータ(試合後にめっちゃ研究したそうです)やピュアブレッド時任さんのホレッタを学んでみたくなりました。
自分もプライベートレッスンで教えてもらおうかなー

おまけ

埼玉県熊谷市にあるリラクシンのホワイトボードの横に、スピンマスター 松本一郎さんの大阪セミナーのポスターが飾ってあったので柿澤さんに理由を聞いてみたところ、「レジェンドだから」とのこと。理由が謎すぎる・・・(笑)
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