ブラジリアン柔術の紫帯になる条件とカリキュラム(前編)
初心者の頃に「神のように強い」と思った人は紫帯を巻いていました。柔術の白帯と紫帯では天と地ほどの実力差があり、組み手でコントロールされると相手に何をされているのか全く理解できないほどでした。
そのため白帯の頃は、青帯は「現実的な目標」で、紫帯には「憧れや尊敬」に近い感情がありました。紫帯に昇帯したあとも「自分はこの帯色にふさわしい実力があるのだろうか?」と考えたりすることがよくあります。
そんな紫帯への昇帯は、柔術界隈に「万年 青帯」という言葉があるくらい高いハードルなのですが、その基準は道場によって異なります。道場によってはある程度の実力がついたら早めに昇帯させるところもあれば、昇帯の基準が厳しくて試合で優勝する実力があってもなかなか帯が上がらないところもあったりします。
いったい紫帯とは、どのくらいの実力が必要なのでしょうか。
紫帯としての必要条件とカリキュラム
BJJ WORLDの編集長でありINFINITY BJJ SPLITのヘッドコーチでもあるディノ・モスカテロさん(黒帯)の「BJJ Purple Belt Requirements And Curriculum(紫帯としての必要条件とカリキュラム)」という記事が興味深かったので、分かりやすい日本語に翻訳しながら要点をまとめました。
以下、翻訳まとめ記事です。
※翻訳記事の掲載許可取得済み
紫帯は柔術で最も楽しい時間
現在、ブラジリアン柔術は世界で広く普及して、多くの人が青帯に昇帯しています。そして、帯の昇帯基準(とくに青帯)は10年前と比べてかなり低くなっていると感じます。
紫帯を取得するには、かなりの知識量と柔術の理解が必要で、求められる必要条件は青帯よりも大きく上がります。紫帯とは柔術家にとって、とても重要な時期で、技の仕組みが理解できるようになって応用力が養われる時期です。
「紫帯は黒帯が知っている全ての技を知っているが、経験が違いを生む」という言葉もありますが、紫帯はそのレベルに到達している場合のみ昇帯すべきだと私は考えています。
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今回の記事は青帯としての必要条件とカリキュラムの続編です。こちらもぜひお読みください。
紫帯としての必要条件とは
技術的な観点から見ると、紫帯は基本的な技術をしっかりと理解し、様々なポジションから攻撃や防御を行い、サブミッションやスイープの選択肢を複数もっている必要があります。それからポジションをスムーズに移行できて、コントロールを維持することに重点を置くべきです。
さらに、紫帯は打撃に対して冷静さと適応力を示し、効果的にテイクダウンや引き込みを行う能力を持つことが期待されます。セルフディフェンスの技術は上位の帯になっても磨くことが重要です。
1. ムーブメント
青帯で学んでおくべき重要なことは、ポジション間の移行方法です。ガードから、マウントまたはバックまでポジションを移行できる能力を持つ必要があります。
さらにレベルの高い青帯はグランビーロール・イマナリロール・インバージョン・バックステップ・シットアウトなどの、より高度な柔術特有の動きにも対応するべきです。これらの動きは紫帯の試合の中で重要な要素です。
2. ボトムゲーム
ボトムゲームでは、少なくとも2つのクローズドガードのバリエーションと3つ以上のオープンガードに慣れるべきです。さらに、ハーフガードにも注力すべきです。その理由は、ハーフガードがエスケープを試みる際の経由ポイントになるからで、その理解が非常に重要な役割を果たすからです。
クローズドガード
クローズドガードのキープは、立った姿勢・ひざ立ち・密着などの異なるスタイルのパスガードに対応できる必要があります。
さらに、クローズドガードのバリエーションを、少なくとも2つはマスターしてください。以下にいくつかの例を示します。
- ハイガード
- ウィリアムズ・ガード
- ラバーガード
クローズドガードからのアタック
クローズドガードからのアタックは、紫帯を目指すのであれば攻撃コンビネーションを覚える必要があります。つまり、例えばアームバーを狙った場合、そこから三角絞めに移行したり、そのポジションを使ってスイープしたりなどクローズドガードからのサブミッションを使ったスイープができるのが紫帯です。
- フラワースイープ
- オーバーヘッドスイープ
- 100%スイープ
- ギロチンスイープ
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オープンガード
オープンガードは色々とガードを試してみることから始めますが、本当に好きなスタイルが見つかるのは紫帯の頃です。紫帯は、少なくとも複数の異なるオープンガードを知っていることが必要です。
- デラヒーバガード
- スパイダーガード
- ラッソーガード
- Xガード
- 肩襟片袖ガード
オープンガードからのアタック
紫帯レベルのオープンガードは非常にスムーズで、さまざまな動きや攻撃コンビネーションが必要です。オープンガードからの攻撃はガードのバリエーションによって異なるので、少なくとも各バリエーションから異なる方向に向けたスイープをいくつか覚えておくことが重要です。
ハーフガード
ハーフガードを本格的に理解し始めるのは青帯の頃からです。ハーフガードにはさまざまなバリエーションが存在するので紫帯に最も適した技術を特定するのは難しいですが、個人的にはZガードをお勧めします。
Zガードは攻撃の成功率が高くディフェンス力もあり、道着でもノーギでも使えます。そして、ハーフガードはディフェンスを覚えることが最も重要です。
- ハーフガードからのスイープ
- ハーフガードからのサブミッション(ループチョークやキムラなど)
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3.トップゲーム
紫帯はパスガードも非常にスムーズにこなしますが、トップポジションのキープと主要なポジションへの移行スキルも必須です。
少なくとも複数のサイドコントロールやニーオンベリーのバリエーション、マウントポジションおよびバックコントロールのバリエーションを知り、それらの間を移行できるスキルが必要です。
サイドコントロール
サイドコントロールでは、ポジションキープが重要です。サイドコントロールの各種バリエーションやオプションを互いに連携させる方法が必要になります。
選択肢の組み合わせによりポジションをキープすることができれば、紫帯の要件の重要な項目を満たすことになります。
- ツイスターサイドコントロール
- 柔道サイドコントロール
- ノースサウス
マウント
マウントポジションを機能させるには、とても細かい技術を要します。エスケープを防ぐためにはポジション調整が大切で、ローマウント・ハイマウント・S字マウントに慣れている必要があります。そして、それらのポジションを移行する方法も知っている必要があります。
- ローマウント
- ハイマウント
- S字マウント
バックコントロール
紫帯レベルでは、バックコントロールの技術を理解する必要があります。特にバックキープが重要なポイントで、習得するにはとても時間が必要です。ボディトライアングルやシートベルトグリップの活用方法も紫帯になる前に学んでおくべきです。
- バックリテンション
- ボディトライアングル
- サイドの切り替え
ニーオンベリー
ニーオンベリーは、みんなが評価しているよりも、実はずっと多様なポジションです。とはいえ、ニーオンベリーのようなプレッシャーのかかるポジションと、さらに上の階層に移行できるポジションを交互に使い分けることは、紫帯で最も重要な条件の1つです。
- ニーオンベリーからのプレッシャー
- サイドを切り替える
タートルポジション
攻防のなかで亀を崩すことができるのも紫帯の特徴です。それから、亀を崩した相手を制圧して再び相手が亀に戻ることを防ぐことも大切です。
バックコントロールへのローリング、ガブリがどのように機能するかを把握すること、そしてネルソンやチキンウィングといったレスリングの定番技を使って亀を崩すことは必須です。
- ローリングバックテイク
- ガブリ
- ネルソン
4. パスガード
柔術において、ガードをパスすることは決して簡単なことではありません。紫帯は相手の足に対して「インコース・アウトコース」「左まわり・右まわり」「低め・高め」という3つのパスルートから少なくとも1つを選択しなければなりません。それから、プレッシャーパスとルースパスの理解もそのレベルでは重要です。
- サンパウロパス
- フォールディングパス
- スタックパス
- レッグドラッグパス
- オーバーアンダーパス
- ニースライスパス
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5. 立ち技
紫帯は、上半身と下半身の両方のテイクダウン技術で、あらゆる方向に人を投げたり倒したりできる必要があります。さらに、道着とノーギの両方でテイクダウンする必要があり、ガードへの引き込みも重要です。
引き込みは、クローズドガードだけでなく、オープンガードやハーフガードも知っておく必要があります。
- クローズドガードの引き込み
- ハーフガードの引き込み
- オープンガードの引き込み
- ダブルレッグ・テイクダウン
- シングルレッグ/ハイクラッチ・テイクダウン
- すみ返し/巴投げ
- ガブリからのスナップダウン
- 肩車
- 膝車
6. サブミッション
紫帯になるためには、サブミッションをたくさん知っている必要があります。紫帯を取得する直前には、絞め技・足関節技・腕関節技のスペシャリストになっていなければなりません。
「スペシャリスト」とは、同じくらいの腕前の相手を必ず捕えることができるだけでなく、格上の相手に対しても効果的に使えることを意味しています。
- 三角絞め(ガード、マウント、バックから)
- アームロック(クローズドガード、ハーフガード、マウントから)
- 袖車絞め(マウントから)
- ループチョーク(ハーフガードから)
- 腕三角(バックから)
- トーホールド
- ニーバー
- ボーアンドアローチョーク
- 手首固め(クローズドガードとマウントの両方から)
- ダースチョーク
7. エスケープ
エスケープは紫帯の証です。エスケープとは、紫帯の条件の大きな側面であるかは明らかです。しかし、防御だけでは青帯の領域。紫帯であれば、ニュートラルなポジションに戻すだけではなく、支配的なポジションへとつながるものでなければなりません。
どのようなポジションからでも相手にサブミッションを許さないことが1つの大きなポイントです。
- サイドコントロールのボトム
- マウントのボトム
- バックコントロールのボトム
- タートルのボトム
- ニーオンベリー(レッグロックへのエスケープ、ハーフガードへのエスケープ)
まとめ
「紫帯は黒帯が知っている全ての技を知っているが、経験が違いを生む」
The Purple Belt in Bjj - by GRACIE BARRA
It has been said that a purple belt knows all of the techniques that a black belt knows, the difference lays in the details and precision of execution of those same techniques.
紫帯は、道場によってはインストラクターを担当していたり、ひと昔前であれば道場経営も許されていた※現在は茶帯から ので、柔術について全般的にバランス良く知識と経験があり、その上で得意技も複数あるくらいのレベル感。柔術の「上級者の入り口あたり」といった感じでしょうか。
今回は、おもに「紫帯で必要となるスキル」についてまとめましたが、後編では「紫帯としてのマインドセットや取り組みべき練習内容」などについて紹介します。
プロフィール
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胸に紫帯の心意気を。ブラジリアン柔術の紫帯をモチーフにした刺繍入りTシャツです。リングスパン糸を使用した軽くて柔らかい生地で、色染めの後に洗い加工を施しておりヴィンテージ感が楽しめます。
後編は、「マインドセット」や「練習内容」について
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