ブラジリアン柔術の青帯になる条件とカリキュラム(前編)
青帯を貰った時の嬉しさは格別です。青帯を巻くということは、所属道場で「柔術の基礎ができている」と認められた証だからです。
柔術初心者からよく受ける質問の1つとして、「どのくらい練習すれば青帯になれますか?」というものがあります。誰でも1年ほど練習すれば、早く白帯を卒業して周囲から経験者として扱われたいと考えるのは当然でしょう。しかし、青帯はそれほど簡単には手に入りません。
昇帯の基準は道場によって異なっていて、道場によってはある程度の実力がついたら早めに昇帯させるところもあれば、昇帯の基準が厳しくて白帯の試合で優勝する実力があってもなかなか帯が上がらないところもあったりします。いったい青帯になるには、どのくらいのスキルが必要なのでしょうか。
青帯への道のりは険しい
盛岡ブラジリアン柔術アカデミーの阿部代表が書いた「運動未経験の方が柔術青帯になるまでの期間」という記事によると、運動未経験から始めた初心者が青帯になるには、1000時間の練習量が必要とのこと。
この「1000時間」を達成するには1日2時間の練習で、週3回で約3年。週1回なら約10年かかる計算。ここでいう「練習」とは道場での練習以外の、自宅でのフィジカルトレーニングやテクニック動画を見て研究する時間も含めてOKなのだとか。
分野を問わず「セミプロ」や「中級者」レベルに到達するには1,000時間の努力が必要という「1000時間の法則」という理論がありますが、まさにそれだなと思いました。
私の所属道場ですと、早い人で1年くらい。遅くとも3年くらい継続的に練習に参加できていれば概ね青帯に昇帯していますが、2年以内に約9割の白帯がやめてしまうので残りの1割の白帯が青帯になれるかどうか。なかなか険しい道のりです。
初心者の白帯は、ある程度の実力がつくまで練習でひたすら負け続けることになり、柔術の楽しさを理解する前に挫折してしまう人がとても多いです。その壁を越える難易度も高いのかなと思います。
青帯としての必要条件とカリキュラム
そんなこんなで「一般的に青帯には、どのくらいのスキルがあれば良いのだろう?」と考えていたところ、BJJ WORLDの編集長でありINFINITY BJJ SPLITのヘッドコーチでもあるディノ・モスカテロさん(黒帯)の「BJJ Blue Belt Requirements and Curriculum」という記事がとても興味深かったので、日本語に翻訳してざっくり要点をまとめてみました。
以下、翻訳まとめ記事になります。※ディノさんから掲載許可をいただいています
青帯としての必要条件とは
青帯としての必要条件は非常に単純です。少なくとも1つ以上の技を使って、柔術の主要なポジションから攻撃と防御ができること。もちろん、全てを完璧に対処できることは期待していないけど、特定のポジションで何をすれば良いのかが理解できている必要があります。
私はこれまで、柔術の青帯としての必要条件を正確かつ意味のある形式でまとめたものを見たことがありません。それらを明確にするために整理を試みました。下記の全てを達成できれば、青帯に昇帯するだけでなく、ほとんどの柔術大会で青帯と互角に渡り合えるようになるでしょう。
1. ムーブについて
柔術の動きには独特なものがあるので、完璧に習得するのに何年もかかるのですが、防御の観点から見ると「エビ」「ブリッジ」「テクニカルスタンドアップ」は必須です。これらができていないと青帯とは認められません。
立技に関しては、防御で使う「スプロール」や攻撃で使う「ペネトレーション ステップ」それから、投げられた際の「受身」ができることが必須。それから、「ワニ歩き」や「マカコ」などの各種アニマルムーブのドリルもできたほうが良いです。
2. ボトムゲーム
ボトムゲームに関しては、少なくともオープンガードの1つもしくは、クローズドガードを覚えておく必要があります。
クローズドガード
クローズドガードのキープ、グリップファイティング、ディフェンス・ガードリテンションなどは必須です。
クローズドガードからのスイープ
クローズドガードからのスイープで、習得しておいて欲しいのは以下3つです。
- シザースイープ
- ペンデュラムスイープ
- シットアップスイープ
オープンガード
オープンガードであればなんでも良いのですが、基本的なオープンガード(片足を膝の後ろに引っ掛け、もう片足を反対側の腰に掛け、片足を握り、片腕を持つ)が使えることは必須です。これはトライポッドガードと呼ばれていて、スイープにも簡単に連携できます。
オープンガードのスイープ
以下の2つは白帯から黒帯レベルまで使えるスイープなので、早めに学習しておくと良いです。
- トライポッドスイープ
- 草刈りスイープ
3. トップゲーム
試合でポイントを獲得したり、護身術としても相手をコントロールしたり支配したりするポジションなので、トップゲームを鍛えることはとても大切です。
サイドコントロール
相手が逃げないように、できるだけ長くサイドポジションをキープできることは、青帯としての必用条件の1つです。伝統的なサイドコントロール、柔道サイドコントロール、ノースサウス・コントロールなどは、青帯取得までに習得して欲しいです。
マウント
マウントポジションで相手をコントロールして逃がさないこと。マウントポジションをキープできることは重要なスキルです。ただし、制圧するだけが柔術の本質ではないのでハイマウントやS字マウントも大切です。
バックコントロール
バックでコントロールを失うことなく、ポジションキープできること。ボディトライアングルも早いうちから身につけるには最高のスキルですが、ダブルフックとシートベルトグリップによる基本的なコントロールは必須です。
ニーオンベリー
ニーオンベリーは柔術家にとって重要です。バランス感覚が必要なので初心者で使いこなすのはとても難しいですが、例外なく誰もが必要とするスキルです。ニーオンベリーから左右を入れ替えることも重要なスキルであり、青帯には必須です。
タートルポジション
亀になった相手を制圧できることは青帯の重要な条件の1つです。亀からの選択肢はたくさんありますが、青帯には次の2つが必要です。
- バックテイク
- サイドポジションを取る
ガードパッシング
いずれガードパスはかなりの時間を費やすことになる柔術のスキルですが、早い段階で複数のガードへの対応が必要になります。全てはクローズドガードへの対応から始まります。
- 立った姿勢からの組み手
- コンバットベースからのクローズドガード割り
- 片足担ぎパス
- トレアドールパス・Xパス
4. スタンディング
私のアカデミーで青帯を取得したいと思っている人には絶対に必要です。格闘・試合・ロールができない人に帯を与えても意味がありません。ほとんどのテイクダウンはレスリングや柔道によるものであるため、柔道家やレスラーほどの実力は期待していませんが、限定的なスキルであれば習得できます。以下は、青帯にとって標準要件です。
- ガードプル
- 両足タックル
- 片足タックル
- ボディロックからのテイクダウン
- 大外刈り
- 大内刈り
- 大腰
5. サブミッション
柔術では、相手からタップを取ることは重要なスキルで、トップとボトムの両方からエントリーの選択肢を持つことが大切です。青帯を目指す人は、たとえ試合に出るつもりがなくても、以下のエントリーが必須です。
- クロスカラーチョーク(クローズドガードとマウントの両方から)
- アームバー(クローズドガードとマウントの両方から)
- アメリカーナ(マウントとサイドコントロールから)
- キムラロック(無防備な状態から)
- カラーチョーク(後ろから)
- 裸絞め
- アンクルロック
- ギロチンチョーク(クローズドガードとマウントの両方から)
6. エスケープ
ブラジリアン柔術で最も過小評価されている技術は、悪い位置からうまく脱出する能力です。人は通常、マウントやサイドコントロールから抜け出すために必要なスキルや技術的能力を重視しません。主要なポジションからのエスケープは、青帯の最も重要な要件の1つです。実際のところ、昇帯を望むのであれば、どのようなポジションからでも逃れることができなければなりません。
- サイドコントロールからのエスケープ
- マウントからのエスケープ
- バックコントロールからのエスケープ
- カメからの脱出
- ニーオンベリーからのエスケープ
まとめ
前編は青帯で必須とされるテクニックについてまとめましたが、これだけ全般的にテクニックを習得できていれば青帯でも相当強いだろうという印象。筆者のディノさんは、おそらく技術を網羅的にしっかり教えるタイプの先生なのかなと思いました。
青帯では基本的な柔術の理解に重点を置いているらしいので、もしかしたら1つ1つの技の精度はそれほど高くなくても良いのかもしれません。
後編は「マインドセット」や「練習内容」について
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