ブラジリアン柔術と柔道の違いについて

ブラジリアン柔術と聞いて連想した勝手なイメージをイラストにしてみました。

10年ほど前に「ブラジリアン柔術」という名前を初めて聞いたとき、このイラストのようなド派手な道着の寝技同好会をイメージしていましたが、実際にやってみてその印象は一変。そして、そのルーツがとてもユニークであることに大変興味をもちました。

そこで、「ブラジリアン柔術」と「グレイシー柔術」「柔術」「柔道」では一体なにがどう違うのか。一般的にあまり知らないと思うので、私の知っている範疇で解説してみたいと思います。

ブラジリアン柔術のルーツは日本の「組討ち」にある

「ブラジリアン」という名称からブラジルで独自に生まれの格闘技のように思えますが、じつはルーツは日本の武士が合戦で敵将を倒し組み伏せる際に用いた「組討ち」にあります。

江戸時代以降の平和になった日本では実戦よりも武芸として、組討ちの技術が「柔術」となって高度・体系化されました。この「柔術」という名称には「単なる力業ではない技術」という意味が込めてられていて、打撃・投げ技・関節技・絞め技などの全局面の技術が包括されており、さまざまな流派ごとに得意な技術が異なっていました。

その後、明治時代に嘉納治五郎が「投げ技」が得意な天神真楊流を軸にしながら「寝技」の得意な起倒流の技術を取り入れた「柔道」を創始しました。初心者でもケガせず稽古ができるよう乱取りや試合では打撃を省くことから創始しましたが「形」には当身技もあって、将来的に安全性が確保できれば打撃も含める考えがあったようです。

柔道よりも「組討ち」に近い技術体系

嘉納治五郎は講道館柔道を普及させるために、世界各地に柔道家を派遣しました。そのなかの1人である「前田光世」は、普及活動と滞在費稼ぎのために各地でボクサーやプロレスラー、拳法家などと他流試合をおこないますが、実戦では投げ技よりも瞬時に「タップ」を奪える関節技や絞め技のほうが有効だったようです。

その前田光世が、ブラジルを訪れた際に護身術としてカーロス・グレイシーに「柔道(柔術)」を伝授しました。それが、治安の悪いブラジル社会にてより実戦的な護身術として発展。その後にグレイシー柔術を創設したエリオ・グレイシーが体格的に恵まれていなかったこともあって、テコの原理とポジショニングを活かした体格やパワー・スピードに頼らない寝技が中心の技術体系となりました。

グレイシー柔術の基本は護身にあり、暴漢から身を守ることに重きを置いています。そのため、相手を攻撃で制圧することが目的ではなくて、ガードを駆使して身を守りチャンスがあれば絞めや極め技で戦意を奪って生き延びることが目的です。

現在の柔道は完全にスポーツ化しているので、グレイシー柔術のほうがより「組討ち」の技術体系に近いように思います。

日本の柔道は近代化と引き換えにスポーツ化

戦前の日本はとても武道が盛んで、柔道も今とは比べものにならないほどの競技人口でした。そして、現在は禁止されている引き込みや足取りなども許される「組討ち」のなごりの残った生死をかける覚悟で挑む武道でした。その中心にいたのは、15年間不敗のまま引退した史上最強の柔道家と称される「木村政彦選手」です。木村政彦選手は、グレイシー柔術の創始者「エリオ・グレイシー」にもブラジルで行われた試合で圧勝しています。

グレイシー柔術とブラジリアン柔術は呼び名が違うだけ

グレイシー柔術は、現在も総合格闘技イベントとして続くUFCの第1回・第2回大会で、ホイス・グレイシーが圧倒的な実力で優勝をしたことによりアメリカで大人気となりました。

その影響でブラジルから大勢の黒帯柔術家がアメリカへ渡ったのですが、生徒を取られることを懸念したホイスの兄であるホリオン・グレイシーが「グレイシー柔術」という名称を商標登録したために、ホリオンが認める道場以外では「グレイシー柔術」と名乗れなくなってしまいました。

そのため一般のブラジル人柔術家はもちろんのこと、ヒクソン・グレイシーやヘンゾ・グレイシーなどの親族まで「グレイシー柔術」という名称を使用できなくなったので、「ブラジリアン柔術」という名称で普及したのです。

ゆえに、グレイシー柔術とブラジリアン柔術は呼び名が違うだけで、ほとんど同じ技術体系です。それぞれ、グレイシー柔術は護身術として、ブラジリアン柔術は誰もが楽しめる競技として世界的に普及しています。

まとめ

柔術日本の武士が合戦で敵将を倒し組み伏せる際に用いた打撃・投げ・関節技・絞めなどの全局面の技術が包括された技術体系の総称。
柔道嘉納治五郎が創始した、投げと寝技を取り入れた柔術の流派の1つ。戦後にスポーツ競技化して世界的に普及した。
グレイシー柔術ブラジリアン柔術と同義。商標登録されているためホリオン・グレイシーが認めた道場のみ名称を使用できる。
ブラジリアン柔術日本の柔道が明治時代にブラジルに渡り、独自に進化して世界的に普及。

このように、「ブラジリアン柔術(グレイシー柔術)」は、武士が武芸として訓練していた「日本の柔術」が治安の悪いブラジルで独自に進化して、1990年代後半に日本人の有志によって発祥の地に逆輸入されたものです。

現在の柔道はかなりルールで制限されて完全にスポーツ化してしまったので、ブラジリアン柔術(グレイシー柔術)のほうが本来の「柔術」の姿に近くなっているところが大変面白いところです。

そのブラジリアン柔術も、近年では試合のルール内で効率的に勝てるテクニックが過剰に進化してしまい、実用的ではない技術も普及していますが、さまざまな年代の人が安全で末長く競技を楽しめるよう、帯・階級・年代別で試合できるという工夫があり、生涯スポーツとしても素晴らしい競技だと思います。

プロフィール

TUNETOMO 取材・文/イラスト

柔術紫帯。柔道黒帯。上級ウェブ解析士。デジタルマーケティングによるWeb戦略提案とUI/UXディレクションが専門分野。柔術とイラストレーションと洋服が好きすぎて、オリジナルのアパレルSHOPまで作ってしまった。

SUZURIでオリジナルアイテムを販売中

公式 SUZURIアカウントにて、柔術イラストレーションのTシャツやステッカーなどの最新アイテムを販売中。記事の挿絵用に描いたイラストを使ったオリジナルグッズなのですが、見てもらえると嬉しいです!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA