柔術の才能や能力はどこまで遺伝するのか
個人的な経験から以前に「武道の強さは遺伝するのか」について考察したのですが、その後に学んだり気がついたことをまとめてみました。
曽祖父(ひいおじいちゃん)から受け継いだ才能
私の曽祖父は明治維新の約20年後に生まれて、19歳で宮相撲の大関(最高位)となり西日本で無敵の強さを誇った人でした。相撲の基本技の「押し」を得意としていて、農作業では60kgの米俵を片手で軽々と放り投げていたそうです。
その弟は京都にある大日本武徳会で七段を取得した柔道家。片手で碁盤(厚さ:16cm/重さ:16kgくらい)を掴んで頭上まで持ち上げるようなグリップ力の強さがあり、両手に碁盤を掴んで一升瓶に乗ってしまう超人的なバランス感覚の持ち主でした。組んでからの技術に長けていたそうです。
うちの親族の男性はほぼ柔道をやっていて、「筋肉が柔らかい」「瞬発力がある」「腰が強い」といった資質を持つ人が非常に多いので、それらは筋肉の質と骨格の遺伝による影響が大きいのではないかと考えました。
才能の遺伝について
行動遺伝学の研究によると、人には2万個以上の遺伝子があって、その組み合わせによって、身長・骨格・運動能力・知能・性格・行動・体質などに影響があることが分かっているそうです。
以下の表は親からの遺伝の影響の大きさの比率を「柔術で強くなるために必要な資質」でまとめてみたデータですが、親からの遺伝による個人差はかなりの分野で存在するようです。
知力
才能 | 親からの遺伝率 | 能力についての説明 |
---|---|---|
一般知能(IQ) | 77% | インプットした情報に対する理解力・処理能力 |
論理的思考力 | 68% | 仮説から結論に至るまでを論理的に思考する能力 |
学習能力 | 55% | 集中力・自己管理能力 |
暗記力 | 50% | 学んだことを記憶する能力 |
数学的才能 | 87% | 空間把握能力を含む数学的な才能 |
さらに応用編として、獲得した知識と経験を組み合わせて上手に問題解決する地頭の良さや流動性知能なども成果に差がでる要因だと思います。
体力
才能 | 親からの遺伝率 | 能力についての説明 |
---|---|---|
運動能力 | 66% | 速筋と遅筋の割合、筋肉の柔らかさなど |
競技能力 | 0% | 先天的な骨格・筋力に依存しない技術・センスは完全に後天的なもの |
運動能力はざっくり、速筋優位(瞬発力系)と遅筋優位(持久力系)に分けられますが、速筋優位のほうが筋肉が肥大しやすくて、マッチョな体になりやすいです。また、速筋は訓練次第ではほぼ完璧な遅筋に変えられるけど、逆はできないことが最近の研究で分かってきているそうです。
『遅筋を速筋に変えることはできないが、速筋は訓練次第でほぼ完璧な遅筋に変えられる』ということがわかってきています。つまり、生まれつき遅筋の多い人がいくら頑張ってもスプリンターになることは難しいですが、速筋の多い人は、トレーニング次第では優秀なマラソン選手にもなれるのです。
東京大学大学院教授で日本の筋肉研究の第一人者である石井直方氏のコメント
身体的特徴
才能 | 親からの遺伝率 | 能力についての説明 |
---|---|---|
身長 | 90% | 身長はかなり遺伝の影響が大きい |
骨格 | 80% | 骨格のフレームの大きさ |
ホルモンの分泌量 | 50% | ホルモン分泌量の違いによる筋肉のつきやすさ |
肥満 | 50% | 先天的な遺伝子の影響による太りやすさ |
軍隊のような過酷な環境で訓練していると、同じメニューをこなしているはずなのに「どんどん痩せる人」「筋肉が増える人」「ちょっと太る人」などの個人差が生じるのは、先天的な遺伝子の影響が関係しています。
才能を発現させるには訓練が必要
前項のように、ほとんどの能力は遺伝によってある程度決まっています。しかし優れた才能をもっていても、それを磨かなければ能力が発現されることはありません。
超一流とは、特定の分野において「特別な才能をもった人」が適切な知識を学び「圧倒的な量の訓練をすること」によって発現した稀有な能力です。
才能 | 親からの遺伝による才能。0〜5ポイントの6段階で評価 |
教育 | 先生から技術を学ぶ・教則動画で学ぶなど。0〜5ポイントの6段階で評価 |
訓練 | 才能を磨くための練習量。0〜5ポイントの6段階で評価 |
「能力」とは、こんな感じで数値化してみると分かりやすいかもしれません。
たとえば、ものすごい才能(5ポイント)をもって生まれたとしても、教育と訓練がなければ(5+0)x0 = 0ポイントなので、なんの能力も発揮されません。
あまり才能に恵まれなかった(1ポイント)としても、最高の教育(5ポイント)と最高の訓練(5ポイント)があれば、(1+5)x5 = 30ポイントなので、全てのポイントがMAXの超一流(50ポイント)の半分を少し超えたくらいの能力は身につきます。
行動遺伝学者の安藤教授によると、古代ギリシャの時代の哲学者が「才能」「教育」「訓練」の3つを比較した際、訓練は場合によっては才能を凌ぐこともできるかもしれないが、教育が才能や訓練を凌ぐことはないと考えられていたとのこと。
気がついたら1万時間経ってたくらい訓練すると1人前になれるという「1万時間の法則」というのがありますが、まさにそれ。練習(訓練)することの大切さがよく分かりますね。
明治時代の日本人のフィジカルはすごかった
幼少期から曽祖父と寝食を共にしてきた私の父によると、ひいおじいちゃん兄弟のフィジカルは、現代人とは全く比較にならないくらいほど強靭だったそうです。
江戸時代の日本人の身体能力やフィジカルが、現代人と比べると脅威的なレベルであったことは有名な話です。一般人の握力が平均で80kgくらい。一般女性でも60kgの米俵を5個まとめて(計 300kg)普通に運んでいたらしく、曽祖父たちが生まれてから成人になるまでを過ごした明治時代中期〜後期(1890〜1910年頃)でもその名残りがあったようです。
現代のスポーツ界では「日本人はフィジカルで劣る」みたいなことが言われていたりしますが、およそ100年前の日本人のフィジカルは、現代人からすれば異次元だったようです。
明治期に日本を訪れたドイツ人医師のエルヴィン・フォン・ベルツが「ベルツの日記」にて当時の日本人の脅威的な身体能力について証言していますが、その要因は日本人特有の「体の使い方」と「食事」にあったようです。
明治維新後に国内で普及した「西洋式の食事」や「西洋式の体の使い方」と、文明が発達したことによる運動量の低下が日本人のフィジカルを退化させてしまったのかもしれません。
まとめ
このように、才能とは親からの遺伝でほぼ決まっているので、自分の適性を見極め、自分が圧勝できる場所を選定し、その教育と訓練にリソースを集中投下することが成功への近道だと思います。
ただし、これは私の持論ですが、子供の頃は自分で「やってみたい!」と思ったことは全部やってみたほうが良いです。もしも全ての才能が遺伝で決まっているのだとしても、実際にどんな才能が遺伝してるかなんて試してみないと分からないですから。
だから幼少期から幅広い分野で、才能・能力・センスを磨いておいたほうが、最終的には大成する気がしています。
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